第一章 
「xCROWxNILxTAILxCOCKxは、現実世界に対する物理的な働きかけによって、その存在を証明することを使命とする。」
2006年 原初の胎動、×黒×鬼×帝×國×の台頭

はじめに、当ブランド「xCROWxNILxTAILxCOCKx(クロウニルテイルコック)」のストーリーを語る上で、創造責任者及びクラフトマンである臣咲貴王が2006年に立ち上げたシルバーアクセサリーブランド「×黒×鬼×帝×國×(クロオニテイコク)」について解説しておく必要がある。
×黒×鬼×帝×國×は、「Jewelry of the Underground」というキャッチコピーの元、2006年4月に活動を開始した。
創作活動の根源的な動機は、現代の支配的な金融資本主義社会のピラミッドの下層で隷属的(れいぞくてき)に管理されている我々ホモ・サピエンスの行き場のない憤りをシルバーアクセサリーという形で発信することに重要性があると考えたからである。
言わば同ブランドは、支配階級に向けて翻す(ひるがえす)反旗を彷彿させる攻撃的なイデオロギー(観念形態)の表現媒体としてその存在意義を保持していた。
主たる作品モチーフをスカルに定め、角を持つ鬼髑髏(どくろ)リングをはじめとした作品を製品ラインナップとして積み重ね、培われたワックスモデリング技術は現在の制作スタイルにも通じるところがある。
しかしながら、プロトタイプである×黒×鬼×帝×國×は、原初のバイタリティーに対してクラフトマンとしての造形技術や知識、経験が追いついていないというジレンマを抱えており、よって経年とともに過去の作品に対して厳しい自己評価を与えざるを得ない状況に苦悩していた。
当時の苦悩は同時に、ブランドとして唯一無二のスタイルを確立したいという欲求を強めるきっかけとなり、結論として、ブランド名の改称と販売製品の心機一転という選択肢を容認することとなる。
そして2011年4月、造形技術の向上及び世界観の拡張を目的として旗揚げしたxCROWxNILxTAILxCOCKxと入れ代わりで、×黒×鬼×帝×國×はその活動の幕を下ろすこととなった。
尚、×黒×鬼×帝×國×期に発表された当時の作品群は現在では入手不可能となっている。
2011年 意図せぬシンクロニシティ、そして第二形態へ

xCROWxNILxTAILxCOCKxは全くの偶然から生まれた。
当ブランドがxCROWxNILxTAILxCOCKxという奇異で複雑なブランド名を冠している理由については、上述の前身ブランド×黒×鬼×帝×國×から理解できる。
すなわち、xCROWxNILxTAILxCOCKxは×黒×鬼×帝×國×の空耳英語から生まれた名称であるからだ。
×黒×鬼×帝×國×の読みに英語が当てはまることに気づいた時からxCROWxNILxTAILxCOCKxの構想は頭の中にあり、×黒×鬼×帝×國×での活動中からその概要は無意識的に温められていた。
そして熟考の末、技術向上の確信にあたる2011年4月を転換点としてブランド名を正式にxCROWxNILxTAILxCOCKxに改称することとなり、「神秘的マテリアルと退廃的世界観のケミストリー」のキャッチコピーと共に新たな世界観を目指す作品づくりを開始した。
この第二形態においては、貴金属マテリアルの神秘性に重点を置いており、燻し(いぶし)を全く施さない作品や白仕上げを用いたものなど、プロトタイプの分かり易い退廃性とは一線を画す神秘的な印象を追及した。
2016年 至上の第三形態、腐敗と富の統合

第二形態のxCROWxNILxTAILxCOCKxは実験場であった。
一般的なシルバーアクセサリーにみられる凹部の燻しと凸部の鏡面磨きによる仕上げテンプレートに反発するかの如く、鏡面仕上げに白仕上げを組み合わせたり、スカルリングの全面に白仕上げを施すなどの実験的な表現で需要の在処を窺った(うかがった)第二形態。
その中期においては、オンラインショップ上でご注文の際に作品の仕上げ方法を選択できるようにするなどの対応を図ったが、結果としてその寛容性がブランド自体の芯を揺るがしているのではないかという新たな疑念を生じさせることとなったのである。
ブランドはまたしても行き詰まりを見せた。
そして、暗中模索の末に打ち立てられたのが、2016年4月に「for DEVIL」ラインとして売り出された現在の様式、つまり、ゴールドとシルバー(硫化銀)の融合による悪魔的な世界観の誕生であった。
×黒×鬼×帝×國×の初期より使用していたルース(石)の要素を排除し、使用マテリアルを金と銀の貴金属のみに限定したオリジナルの表現形式。
これによって、ブランドは強固なアイデンティティを獲得した。
そして、2020年4月には第二形態以前の作品について全ての販売を終了し、for DEVILというカテゴリーを取り払ってxCROWxNILxTAILxCOCKxの標準仕様として統合し、以後この第三形態としてのコンセプトを踏襲する現行ライン作品のみを制作、販売していくという方針に落ち着いた。
見えざる諸力により、奇しくも五年周期で転換点を迎え続けた当ブランド。
以下第二章では、導かれるかのように宿命的な道筋を辿ったxCROWxNILxTAILxCOCKxというブランド名自体に隠されていたシンクロニシティ(意味のある偶然)について解明していく。
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